”日本の金利は低いので、海外の高金利の資産を持って国際分散投資をしませんか。”
”特に、今後の成長が期待できる新興国への投資がおすすめですよ!”
なとど銀行とかから話を持ち掛けられた経験はないでしょうか。
これまで、金融商品のリスクとは何かというところから、資産運用における分散投資の考え方、どうやって分散投資をするのかということを取り上げました。
そして、前回は初心者向けに為替の基礎について学んできました。
今回は、勧められるがまま儲け話に乗り、資産を大きく減らしてしまったケースをお伝えします。
ことの顛末を物語風に再現し、今後に活かすための教訓を考えてみたいと思います。
なお、ストーリー仕立てにしているので、表現はフランクです。
”資産運用には興味がある、あわよくばお金を増やしたい”
最近A男は、こう思うようになっていた。
会社員としての行く末はほぼ見えている。年齢は40を超え、もはや転職も厳しい。そもそも社外で通用するようなスキルと言われても自信がない。
これからもっと、子どもの教育費はかかってくるし、老後にも備えてお金は増やしておきたいのだ。
でも、会社員以外に収入源を増やそうと、副業も気になるが何をどうしたらいいかわからないし、週末に働く体力も気力もない。
今持ってる銀行預金をかき集めたら、400-500万円はある。
と考え妻に相談してみた。
元本割れするかもしれない怖さは確かにある。
ただ、日本の銀行の定期預金に入れても、利息はほとんどつかない。。。
と漠然と考えていた。
トルコ(新興国)の債券の金利ってマジで高っ!
そんなときにふと目にしたのが、トルコリラ建ての債券の広告だった。
利回りは、12%を超え、満期になったら8倍にもなって戻ってくるらしい。
債券ってことは、お金を貸しているのと同じだ。
株みたいに価格が日々変動して一喜一憂する必要はないんだろ?
期中放っておいて満期まで待っていればいいじゃん。満期になったら約束した金額が戻ってくるだろ。
借り手は、モルガン・スタンレーなんとかってとこか。
モルガン・スタンレーって言えばオレでも聞いたことあるくらいの、大手の金融会社なんだろ。そんな会社の子会社が借りた金返さないとかって、まずありえないでしょ。
日本とは違って高い金利収入が得られるのは、なんといっても魅力的だしね。
とか言って、子どもの頃、親の目を盗んで読んでたエロ漫画のお色気シーンを思い出していた。
なんか希望が湧いてきた。
金融機関で勧められるがまま口座を開設し、定期預金に眠っていた虎の子を「トルコリラ建て債券」に投じた。
この時は、満期になったらお金が増えているというイメージしか描いていなかった。
見なかったことにする・・・
トルコリラ建ての債券に投資した、といっても預金と同じように放置。
途中で売却することもできるようだが、もともと満期まで待つことを想定していたし、そもそもどうやったら売却できるのかもわからなかったからだ。
投資してほどなくしてから、トルコでインフレが進んでいるというニュースをテレビでやっていた。
気になって、自分のアカウントにログインして確認してみた。
評価額はプラスどころかマイナスになっているではないか。
だ、騙された・・・という思いで、怒りが込み上げてきた。
【補足】—–
正確には騙されてはいない。
そのカラクリは、トルコリラと日本円の為替レートが当初よりも思いっきり円高・トルコリラ安に振れていたというもの。
外貨投資の損益は、金利と為替の損益の合計。
確かに金利だけなら日本の金利水準と比べて高い。でもそれ以上に円高(トルコリラ安)が進み、為替で大損をぶっこいていたのだ。
申し込んだ際には、元本が保証されていないこと、投資リスクがあること等がビッチリと書かれた書面の説明があり、それを理解した旨のサインをしているのだ。
——
今さらクレームをつけてもどうしようもない。。。
だから、自分のパソコンに表示されていた資産状況は見なかったことにして、画面を閉じた。
要するに、”現実逃避”ってやつだ。
その後、マイナス幅がもっと拡大していたら怖かったので、その後アカウントを開くことはなかった。
「固まった」のはパソコンじゃなくて自分だった
その後、トルコリラ建て債券が満期になったという旨の連絡がメールで届いた。
本文の中には、リンクが貼られている。
貼られていたリンクをクリックして、自分のアカウントを開けば、最終的な損益がわかる。
が、画面の前でしばらく固まる。
単にクリックすればいいだけ。
でも、そんな簡単なことがなかなかできない。
怖ぇぇぇーーーー
とうのが本音。
だって、以前に確認したときは、評価損益がマイナスになっていたのだから。
それからかなりの月日が経過している。
いや!あの時が底でそこから回復してるはずだ!
と無理くり自分に言い聞かせたり、やけにポジティブシンキングになってみたり、無神論者なのに祈ってみたり・・・
そうこうして画面の前でどのくらい時間がたっただろう。
確実に言えるのは、そこから一歩も進んでいない、ということ。
ようやく観念して、恐る恐るクリック・・・
溶けてんジャン・・・((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
確かに、当初想定された通り、債券は満期となり無事に償還された。
高い金利はついている。
しかし、これはあくまでトルコリラ建ベースでの話。
TTB※が適用されて円建てで戻ってきた金額は、当初投じた金額の半分ほど。。。
※えーと、TTBって何だっけ?っていう場合は、こちらへ!
【解説】なぜ、こうなったのか
トルコのような新興国は、米国のような先進国と比べても(政策)金利が高いです。
投資をする上で魅力的に映るのは確かです。
しかし、2008年9月のリーマンショック以降、金融不安で世界の株価が暴落し、円高が進行したことで外貨投資をしていた方は大きな損失をこうむりました。
・・・実は、私も大損ぶっこきました(笑)
2014年以降はアベノミクスと呼ばれた金融緩和の効果もあり、先進国通貨は対円で大きく上昇しましたが、トルコ・南アフリカなどの新興国通貨は対円で下落し続けてたのです。
更に、2018年8月には更に追い打ちとなる出来事がありました。
トルコ在住の米国人牧師の拘束問題を契機に、米国との関係悪化が嫌気されたトルコリラは、わずか1日で一時20%近く下落(円高・トルコリラ安)したのです。
このことがきっかけで、投資家の中では「やっぱ、新興国への投資しとくのはヤバいわぁ。一旦、米ドルとか日本円とかの先進国通貨に避難しとこ」っていう雰囲気になり、新興国株を売却し、売却して手にした新興国通貨を売って先進国の通貨を買い戻す動き(※)が強まりました。
※「質への逃避(Flight To Quality)」と言われるものです。
ここでも、新興国通貨に投資していた人は大きな痛手を負いました。
トルコリラー日本円の長期のチャートを確認するとそのヤバさがイメージできると思います。
しかも、トルコリラのような新興国通貨の場合、TTSとTTBの差であるスプレッド、つまり金融機関にむしり取られる手数料は先進国のそれよりも大きいのが一般的。
そのことは、金利で稼いだ利益を削る(損失を拡大させる)要因にもなります。
そもそもTTSとTTBという基礎知識も怪しい人は結構いると思います。
そんな人は、スプレッド(TTSとTTBの差)が大きくてトルコリラが円に戻されるとき、かなり不利なレートが適用されていることすら気付いていなかったりします。
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ストーリーに出てきたA男は、見かけの話で、なぜか勝手にお金が増えるイメージだけを膨らませてしまいました。
だから、ひもが固いはずの財布からホイホイとカネを出してしまったのです。
その結果、大金を失ってしまった。
後になって、「あれは高い授業料だった」と言える日が来るかもしれません。
でも、「授業料だった」と言えるのは、まず正しい知識を身に付けたうえで再び臨み、運用結果がプラスになった時に言えるというもの。
将来何らかのチャンスが回ってきたときに、今回と同じような知識しか持ち合わせていなければ、それこそカモというもの。
騙されやすい人は、何度も騙されるって言われますしね。
なお、痛い目に遭って、「もう投資は懲り懲りだ」「投資?絶対やらん!貯金だけ!」ということなら、今度はインフレで資産価値を減らすことになりうる、ということは覚えておいていいと思います。
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